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自治体・公共機関におけるデータ活用(EBPM)の進め方
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自治体・公共機関におけるデータ活用(EBPM)の進め方
【この記事の要約】
- EBPMとは、勘や前例踏襲ではなく、データを根拠に政策の目的・手段・効果を設計し検証する考え方です。
- 出発点は分析ツールの導入ではなく、「この施策は何をどれだけ変えたいのか」を一枚のロジックモデルで言語化することです。
- 定着しない原因の多くは分析力不足ではなく、指標の合意形成と、検証結果を予算・計画に接続する仕組みの欠如にあります。
⏱ 読了目安:約8分
1. EBPMとは何か―「根拠に基づく政策立案」の定義
EBPM(Evidence-Based Policy Making/証拠に基づく政策立案)とは、政策の目的と手段の関係を根拠となるデータで裏づけ、実施後に効果を検証して次の意思決定に反映させる一連の営みを指します。単に「データを見て決める」ことではなく、目的・資源・活動・成果の筋道を描き、後から検証できる状態にしておくことが要点です。
この筋道を図にしたものがロジックモデルです。子育て支援策なら「予算と職員(インプット)→窓口の開設と広報(活動)→相談件数(アウトプット)→育児不安の軽減(アウトカム)」という連鎖を一枚に整理します。総務省統計局の「EBPMのためのデータ利活用実践ガイドブック」(令和7年度版)でも、実践の過程で直面しやすい「壁」とその解消の工夫が整理されており、分析技術より前段の設計が要になることがうかがえます。
逆に言えば、EBPMが機能していない状態とは「事業をやったこと自体が成果として報告され、何がどれだけ変わったのかを誰も答えられない」状態です。決算資料に並ぶのは実施回数と参加人数だけ、という光景に心当たりのある方も多いはずです。
2. なぜいま、自治体でEBPMが求められるのか
背景にあるのは、財源と人員の制約が構造的に強まっていることです。税収の伸びが見込みにくい一方、福祉・インフラ更新・防災の需要は増え続けます。すべての事業は続けられず、「やめる判断」を説明できる根拠が要ります。前例踏襲の組織ほど削減の議論は声の大きさで決まり、職員の納得感も得られません。
もう一つの追い風は、行政データの整備が制度面で進んだことです。総務省の「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第5.0版】」(2025年12月17日)では、標準準拠システムへの移行が節目を迎えた先の重点として、自治体間でのシステムの共通化・共有化、BPRの徹底、AIが適切に認識できる機械可読性の高いデータの自動生成・更新が示されました。独自仕様だった時代に比べ、データを突き合わせる技術的なハードルは確実に下がりつつあります。
可視化の基盤も整ってきました。内閣官房・総務省・デジタル庁が連携して整備した「Japan Dashboard」には、地方財政(市町村ごと)に関するダッシュボードが2026年4月に追加され、他団体との比較から自団体の位置を把握できます。デジタル庁からは「ダッシュボードデザインの実践ガイドブックとデザインテンプレート」の正式版と活用事例集も公開され、ゼロから設計せずとも踏襲できる型が公的に用意されつつあります。
3. EBPMを進める5つのステップ
実務としてのEBPMは、次の5段階で進めます。大切なのは最初から全事業に適用しようとしないこと。1つの事業でひと回りさせ、庁内に共通言語をつくるのが先決です。
5つのステップと最初の一歩
| ステップ | やること | 最初の一歩 |
|---|---|---|
| 1. 課題の特定 | 解きたい地域課題を、対象者と困りごとの粒度まで具体化する | 「誰の、どんな状態を、どちらに変えたいのか」を一文で書く |
| 2. ロジックモデル作成 | インプット→活動→アウトプット→アウトカムの連鎖を一枚に整理する | 既存事業を1つ選び、担当課と1時間で書き出す |
| 3. データの棚卸し | 指標に使えるデータの所在・更新頻度・取得可否を確認 | 業務システムと統計を指標ごとに突合表へ書き出す |
| 4. 効果検証 | 実施前後や比較対象との差から変化の有無と大きさを見る | 比較対象(未実施地区・前年同期)を先に決めておく |
| 5. 次年度への反映 | 検証結果を予算要求・計画改定の判断材料に用いる | 予算査定の様式に「検証結果」欄を追加する |
見落とされがちなのがステップ4の準備です。「何と比べれば効果があったと言えるのか」を事業開始前に決めておかなければ、後から取り返しがつきません。まず自問すべきは「この事業をやらなかった場合の姿を、どのデータで示せるか」です。ただし厳密な比較対照群を置く実験的な検証は、自治体の実務では現実的でない場面が大半です。前年同期や未実施地区との傾向比較から始めれば十分。手法の厳密さを求めて一歩も踏み出せないほうが、失うものは大きくなります。
4. 庁内でつまずく3つの失敗パターンと、その先に起きること
失敗1:指標が「やりやすさ」で選ばれる
アウトカムを測るのが難しいため、集計しやすい参加人数や配布部数だけがKPIとして残るケースです。担当課は数字を伸ばすため動員をかけ、本来届けたかった層に届いているかは誰も見なくなります。数年後に事業の必要性を議会で問われても、手元にあるのは「延べ人数は増えています」という説明だけで、再設計に使える情報は残っていません。
失敗2:データが部署の壁を越えない
福祉・教育・税務が別システムで管理され、横断的に見ようとすると目的外利用の壁で止まるパターンです。担当者は部署ごとにExcelの提出を依頼して回り、集計だけで数週間を費やします。照会のたびに同じ作業が繰り返され、分析ではなくデータ収集が仕事の大半を占める状態になります。
失敗3:検証結果が予算プロセスにつながらない
分析報告書は年度末に立派に仕上がるものの、翌年度の予算要求は例年どおりの様式で進み、報告書は参照されないまま書棚に収まります。担当職員は「やっても変わらない」と感じ、翌年以降の記述は形式的になります。EBPMが根づかない最大の要因は分析力不足ではなく、この検証と意思決定の断絶です。
5. 分野別の活用イメージ
着手しやすい領域の例を挙げます(特定の団体の事例ではなく一般的な切り口です)。
- 子育て・母子保健:健診の未受診者と相談窓口の利用履歴を突き合わせ、支援が届いていない層を把握して訪問の優先順位づけに使う。
- 公共施設マネジメント:稼働率・利用者の居住地・維持コストを重ね、統廃合の議論に住民が納得できる材料を用意する。
- 防災:避難行動要支援者名簿とハザード情報、避難所の収容力を地図上で重ね、個別避難計画の空白地帯を特定する。
- 財政運営:類似団体との経費構造の比較から突出した費目と理由を洗い出し、見直しの優先順位をつける。
共通するのは、すでに庁内にあるデータの組み合わせで成り立つ点です。EBPMの初手は収集ではなく接続です。
6. まとめ―最初の一歩は「1枚のロジックモデル」から
EBPMは、高度な統計手法や大規模なシステム投資から始まるものではありません。既存事業を1つ選び、目的と成果の筋道を一枚の図に書き出すことが出発点です。書き出す過程で「そもそも何を達成したい事業だったのか」が担当課の中でも揃っていないと気づく――それ自体が最初の成果です。
次の一手は、来年度の予算要求を控えた事業を1つ選び、担当課と1時間だけ時間を取って、インプットからアウトカムまでを付箋で並べてみることです。各アウトカムの横に「今その数字はどこにあるか」を書き添えれば、データの棚卸し表がそのまま完成します。ツールも予算も要りません。あとは、予算査定の様式に「検証結果」の一行を足す、政策会議に検証報告を定例で入れる。この小さな制度設計が、分析の質よりも定着に効いてきます。
【本記事のまとめ】
- つまずきの多くは分析力ではなく、指標の選び方・部署間連携・予算プロセスとの接続に起因します。
- まずは既存事業を1つ選び、ロジックモデルとデータの所在を1枚にまとめるところから始めます。
公共分野のデータ活用やEBPMの進め方でお悩みなら、株式会社コネクトデータのデータ活用コンサルティングをご活用ください。ロジックモデルの設計から指標づくり、データ基盤整備、人材育成まで一気通貫で支援します。
7. よくある質問
- Q. EBPMとKPI管理は何が違うのですか。
- A. KPI管理は指標の達成度を追うことに主眼があります。EBPMはその指標が本当に政策目的を表しているのか、施策と成果の間に筋道があるのかまでを問い、検証結果を次の判断に返すところまでを含みます。
- Q. 統計や分析の専門職員がいなくても始められますか。
- A. 始められます。初期に必要なのは高度な統計手法ではなく、目的と成果の関係を言葉と図で整理する力です。ロジックモデル作成とデータの棚卸しから着手し、効果測定の設計が必要になった段階で外部の専門家や研修を組み合わせるのが現実的です。
- Q. 個人情報保護との兼ね合いはどう考えればよいですか。
- A. 2023年4月の改正個人情報保護法の全面施行で、地方公共団体にも同法が直接適用されています。庁内の他部署のデータを目的外で使う場合は法第69条第2項第2号(相当の理由があるとき)、他機関への提供は同項第3号、統計の作成を目的とする提供は同項第4号が根拠になります。実務では、まず「個人を特定しない集計単位まで粒度を落とせないか」を設計段階で検討し、そのうえで該当条項を法務担当と確認します。

