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コラム

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人事データ活用と離職予測の進め方|「当てる」より難しい実務の論点

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人事データ活用と離職予測の進め方|「当てる」より難しい実務の論点

【この記事の要約】

  • 離職は発生頻度が低いため正解率では評価できません(令和7年上半期の離職率は8.1%)。自社のベースレートを先に算出することが出発点です。
  • ラベル定義・予測基準日・結果の共有範囲という三つの論点と、人事データ特有の法務制約を整理します。
  • 従業員数千人に満たない規模では、多くの場合フェーズ1(離職率の層別)で十分な示唆が得られます。

⏱ 読了目安:約8分

1. 離職予測は「正解率」では評価できない

離職予測とは、従業員の属性・勤怠・評価等のデータから、一定期間内に離職する可能性を推定する分析を指します。タレントマネジメント(人材の配置・育成・登用の一元管理)の一機能として導入されることが多い領域です。

最初に押さえるべきは、離職予測は正解率では評価できないという点です。厚生労働省「令和7年上半期雇用動向調査」によれば、2025年1〜6月の離職率は8.1%、一般労働者で離職率の高い宿泊業・飲食サービス業でも10.3%でした(厚生労働省「令和7年上半期雇用動向調査結果の概要」2025年12月23日公表)。つまり「全員が辞めない」と答えるだけのモデルでも、正解率は9割近くに達します

「正解率92%のモデルができました」と報告したものの、「では誰に何をするのか」と問われて答えられない。よくある展開です。離職率8.1%の母集団なら、全員を「辞めない」と答えるだけで91.9%。ほぼ同じ数字です。

やるべきは、自社のベースレートを先に出すことです。対象母集団(正社員のみか全社か)と予測期間(半年か1年か)を決めて自社の離職率を算出し、それを上回らないモデルは採用しないと先に線を引きます。次に自問すべきは「離職の3か月前に分かったとして、その3か月で異動も処遇改定もできるか」。打ち手がないなら予測そのものが不要です。

2. モデルづくりでつまずく三つの論点

(1) 「離職」の定義が決まらない

定年と契約期間満了は時期が分かるため通常は対象から外し、会社都合退職も分けます。残る自己都合退職が対象ですが、届出上の「自己都合」には実質的に会社都合のものが混じる点は織り込んでください。定義は分析担当者ではなく人事部門が判断すべき事項です。

(2) 予測基準日より後の情報が混ざる

特徴量は予測基準日までに実際にシステムへ記録され、参照できた値だけで作ります。退職面談の記録や引き継ぎ資料の更新は基準日より後に現れる情報で、混ぜると検証時の数字は跳ね上がりますが、実運用ではまったく再現しません。学習用と検証用も人単位かつ時系列で分け、同じ人が両方に入らないようにします。

(3) 予測結果を誰に見せるか

直属の上司にスコアをそのまま渡すと「辞めそうだから重要案件を任せない」といった対応を招きかねず、離職が現実化する自己成就的な帰結を生じ得ます。一方、効く打ち手の多くは上司しか実行できません。現実解は管理職にはスコアではなく、そこから導いた打ち手(1on1の頻度、業務配分の見直し)だけを渡すことです。

3. 人事データ特有の法務論点

人事データは従業員が断りにくい立場で集められる情報のため、技術的に可能でも法的に使えない場面があります。

(1) 「予測すること自体」を利用目的に書く

個人情報保護委員会は、プロファイリングのように本人の行動・関心等を分析する処理を行う場合、分析結果の利用目的だけでなくその分析処理を行うこと自体を利用目的として特定する必要があるとの見解を示しています(個人情報保護委員会「ガイドラインQ&A」Q2-1)。「雇用管理のために利用します」では足りず、離職可能性の分析を行う旨まで書き込みます。

(2) 既存データの転用には限界がある

前提として、既存の利用目的の範囲内で行う分析に個別同意は原則不要です。同意が問題になるのは、目的外の利用、外部への提供、要配慮個人情報を扱う場合です。利用目的の変更は、変更前の目的から見て本人が通常予期し得る限度の範囲内である必要があります(個人情報保護法第17条第2項)。防犯目的で設置した入退室記録やカメラ映像を人物評価に回すことはこの範囲を超えるため、原則として本人の同意が必要です(同法第18条)。なお「一定期間回答がなければ同意とみなす」方法は認められていません(ガイドラインQ&A Q1-60)。

(3) 手続と「使ってはいけないデータ」

行動ログの収集を伴う場合、同委員会は、目的を特定して社内規程等に定め従業者に明示すること、実施の責任者と権限を定めること、実施ルールを運用者に徹底すること、適正に行われているか確認することを挙げ、あらかじめ労働組合等へ通知し必要に応じて協議することが望ましいとしています(ガイドラインQ&A Q5-7)。組合がない場合は、従業員代表への説明や全社説明会での事前周知が代替手続になります。目的が合理的でも手段が過剰なら違法と判断され得ます(深夜・休日もGPSで位置を常時確認した事案で不法行為責任を認めた例に東京地判平成24年5月31日)。

特徴量に入れてはならないものもあります。ストレスチェックの個人結果は、実施者である医師等が本人の同意なく事業者へ提供できません(労働安全衛生法第66条の10第2項)。健康診断結果や産業医面談記録も扱いが厳格です。また性別・年齢・育児休業取得歴などがプロキシ変数経由で効いた結果を配置や登用に使えば、不利益取扱いの問題に直結します。予測結果を人事評価・登用・処遇の判断材料にしない旨を規程に明記してください。ベンダー委託では、預けたデータが先方の機械学習に使われないことに加え、サーバ所在地と再委託先も契約前に確認します(海外保存なら外国にある第三者への提供として別の手続が必要です)。

4. 着手の順序と、どこで止めてよいか

段階 やること 具体的な作業 目安期間
0 利用目的の点検 プライバシーポリシー・就業規則・同意書で分析処理まで書けているか確認する 1か月(規程改定が要る場合は+2〜3か月)
1 記述統計 各層の在籍者数を分母に置き、入社年次×等級×上長で離職率を層別する 2〜3か月(マスタが分散していれば延びる)
2 予測モデル 基準日時点で参照できた特徴量だけで構築し、適合率・捕捉率・ベースレート比で評価 3〜6か月
3 介入と効果検証 同じ高リスク層の中で介入する/しないを分ける(部署単位の段階展開でも可) 12か月〜

フェーズ3で低リスク者を比較群にすると、もともと離職率が違うため、施策が効いていても無効に見えます。

従業員数千人に満たない規模では、多くの場合フェーズ1で十分な示唆が得られます。「入社3年目の特定等級・特定の上長のもとで離職率が突出している」と分かれば、打ち手は決まります。目安として、学習に使える離職者が2〜3年分で数百件に届かない規模では、モデルは安定しません。関連論点はコネクトデータのコラムでも扱っています。

5. まとめ

離職予測は精度を競う取り組みではなく、いつ知れば手を打てるかを決め、その時点で参照できるデータだけで組み立てることが成否を分けます。加えて人事データには、利用目的の特定やモニタリングの手続という他分野にはない制約が伴います。

今日からの一歩は、直近2年間の退職者を各層の期首在籍者数とセットで集計し、人数ではなく離職率で並べることです。母数が小さい層は1〜2名で率が跳ね上がるため、一定数未満の層は合算します。並行して、自社のプライバシーポリシーに分析処理まで書かれているかを法務と確認してください。

【本記事のまとめ】

  • 「全員辞めない」と答えるだけで正解率は9割近くに達する。自社のベースレートを先に出し、それを上回らないモデルは採用しない
  • 特徴量は予測基準日までに参照できた値だけで作る。後から現れる情報を混ぜると実運用で再現しない
  • ストレスチェックの個人結果は医師等が本人同意なく事業者へ提供できない。予測結果は評価・登用の判断材料にしない
  • 従業員数千人に満たない規模では、多くの場合フェーズ1(離職率の層別)で十分な示唆が得られる

人事データの活用は、分析手法より先にデータの取得経緯と利用目的の整理が要点になります。株式会社コネクトデータは、データの棚卸しから分析設計、社内定着まで一気通貫で伴走します。データ活用コンサルティングにて、進め方を無料でご相談いただけます。

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6. よくある質問

Q. 離職予測モデルは、どのくらいの水準があれば実用的といえますか。
A. 全体の正解率では評価しません。対応できる人数から逆算して上位何%を対象にするかを決め、その層の適合率(実際に離職した割合)が自社のベースレートの何倍か、離職者全体の何割を拾えているか(捕捉率)を併せて見ます。
Q. 従業員の同意は、どの場面で必要になりますか。
A. 既存の利用目的の範囲内で行う分析には、原則として個別同意は不要です。必要になるのは、目的外の利用、外部への提供、健康情報など要配慮個人情報を扱う場合です。なお一定期間内に回答がなければ同意とみなす方法は認められていません。
Q. 匿名のエンゲージメントサーベイの回答を、離職予測に使ってもよいでしょうか。
A. 匿名で回答を依頼した以上、個人に紐づけて使うことは目的外利用にあたります。加えて、再識別されたと従業員が知れば以後の回答率が下がります。個人単位で使いたい場合は記名式に切り替え、利用目的を明示して実施してください。
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