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コラム

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医療・ヘルスケア分野のデータ活用と倫理的配慮

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医療・ヘルスケア分野のデータ活用と倫理的配慮

【この記事の要約】

  • 医療・ヘルスケア分野では電子カルテや仮名加工医療情報などの活用が広がっており、制度整備も急速に進んでいます。
  • 活用範囲が広がるほど、同意・目的外利用・AIバイアスといった倫理的配慮の重要性も比例して高まります。
  • データマップ作成から始まる段階的な進め方が、データ活用とガバナンスの両立に有効です。

⏱ 読了目安:約8分

1. 医療データ活用が急速に進む背景

医療・ヘルスケア分野では、電子カルテやレセプトデータ、健診データに加え、次世代医療基盤法にもとづく仮名加工医療情報など、活用できるデータの種類が急速に広がっています。医療データ活用とは、こうした診療・研究・経営に関わる情報を分析やAIの学習に用いることで、診療の質向上、疾病研究の加速、病院経営や地域医療連携の効率化につなげる取り組みを指します。

制度面の整備も進んでいます。マイナ保険証による資格確認のオンライン利用は2025年11月時点で月間1億件規模に達し(経団連タイムス「医療DX 最新動向と今後の展望」)、次世代医療基盤法に協力する医療情報取扱事業者数も2025年2月時点で152事業者にのぼります(内閣府「次世代医療基盤法の進捗状況等について」)。仮名加工医療情報を用いたAI予測医学などの研究利用も、現実の選択肢になってきました。

一方、現場ではこの制度整備の速さにデータ基盤が追いついていないケースも見られます。例えば、複数の診療科や拠点を持つ医療機関で「地域医療連携で他院にデータを渡すたびに、項目名や単位の違いを手作業で確認し、変換に半日かかる」といった光景は珍しくありません。多くの現場では、診療科や拠点ごとにシステムが個別最適で導入されてきた歴史があり、データの粒度や形式がシステムごとに異なる状態のまま蓄積されてきたことが本質的な背景です。データ活用の検討はまず「どのデータが、どの形式で、どこに散在しているか」の可視化から始まります。

2. なぜデータ活用と倫理的配慮は同時に問われるのか

医療データの活用が進むほど、同時に問われるようになるのが倫理的配慮です。医療データは病歴や治療内容など極めて機微性の高い個人情報であり、活用範囲が広がるほど「本人の同意なく目的外に使われていないか」「AIの判断にバイアスが含まれていないか」「漏えい時に本人がどれほどの実害を受けるか」といったリスクが比例して大きくなります。

この論点を軽視できない理由は意識調査にも表れています。Deloitteの米国医療機関向け調査では、消費者の30%が生成AIの情報を信頼しておらず、80%が「医師が診療にAIを使う場合は知らせてほしい」と回答しています(Deloitte「2025 US Health Care Outlook」、米国調査)。技術的に活用が可能でも、信頼を得られなければ長続きしません。

本質的な背景は、「活用を急ぐ現場ほど、ガバナンス体制の整備が後回しになりやすい」という構造にあります。誰が責任者で、どの目的でデータを使うのかという基本ルールが明文化されないまま部門ごとの個別判断が積み重なると、後になって「誰の許可で使っていたのか」を説明できなくなります。担当者がまず自問すべきは、「この利用目的を患者本人にひと言で説明できるか」という点です。

3. データ活用と倫理配慮を両立させる実践ステップ

データ活用と倫理的配慮を両立させるには、段階を踏んだ進め方が必要です。医療・ヘルスケア分野で実践しやすい5つのステップを整理します。

ステップ 実施内容 自問すべきポイント
1. データマップ作成 保有する患者データ・健診データの種類、保管場所、利用目的を洗い出す このデータは今、誰が何のために使っているか説明できるか
2. 利用目的の明文化 研究・経営分析・AI開発など、データごとの利用目的を明文化し関係者で合意する 目的外利用が発生する余地はないか
3. 加工レベルの選定 匿名加工・仮名加工など用途に応じた加工レベルを選ぶ 加工後も特異な値の組み合わせで本人が特定できないか
4. ガバナンス体制の整備 責任者・承認フロー・監査ログを整備する 問題発生時に誰が説明責任を負うか明確か
5. 患者・利用者への説明 AIやデータ活用の内容を患者・利用者にわかりやすく説明し選択の機会を提供する 説明を受けた本人が納得できる内容になっているか

特に重要なのは1番目の「データマップ作成」です。多くの組織はここに着手する前にAI導入から検討を始めてしまい、後から「このデータは活用してよいものだったのか」という問いに戻ってしまいます。次に確認したいのは、情報システム部門・法務・臨床現場が同じデータマップを共有できているかという点です。まずは自社・自院で保有する患者データの棚卸表を1枚作成することが、最も着手しやすい一歩になります。

4. よくある失敗パターン

データ活用と倫理配慮の両立を後回しにした結果、実際にどのような問題が起きるのか、よくある失敗パターンを2つ紹介します。

パターン1:目的外利用への配慮不足。研究目的で収集した患者データを、当初の説明なく別部門の経営分析に流用してしまうケースです。後日利用目的の説明を求められた際、担当者が納得のいく回答を用意できず対応に数週間を要し、院内の信頼回復にはさらに数か月かかります。広報対応や再説明の人員も追加で必要になり、本来の診療・研究業務の時間が削られます。

パターン2:加工レベルの見誤りによる再特定リスク。仮名加工したつもりでも希少疾患名などの特異な情報が残っており、照合すれば本人が特定できる状態だったケースです。多くの場合発覚するのはデータ提供後であり、提供先への説明・加工基準の見直し・再加工に数週間から数か月を要し、次のプロジェクト計画自体が止まってしまいます。

いずれのパターンも、技術的な失敗である以前に「誰が、どの範囲まで判断してよいかが明確でなかった」というガバナンス上の設計不足が根本原因です。

5. 活用イメージ(一般化した例)

データ活用と倫理配慮を両立できた場合、現場ではどのような変化が起きるのでしょうか。業種特性を踏まえ、一般化した例で紹介します。

例えば、地域医療連携を担う医療機関において、参加施設間でデータ項目の定義とガバナンスルールを統一し情報共有基盤を整備した結果、紹介・逆紹介にともなう検査データの再取得が減り、待ち時間短縮と現場スタッフの確認作業時間の削減が同時に実現した、という活用イメージが考えられます。

また、健診・予防医療を担う事業者において、仮名加工した健診データを研究機関と共同分析し生活習慣病の早期リスク因子を特定する取り組みでは、事前に受診者へ利用目的を説明し同意取得のプロセスを整えたことで、参加率と継続率がともに向上した、という例も想定できます。いずれも、技術的な高度化より「誰のために、どの範囲で使うのか」を丁寧に説明し体制を整えたことが成果につながっています。

6. まとめ

医療・ヘルスケア分野のデータ活用は、制度整備と技術の両面から着実に広がっています。一方で活用が進むほど倫理的配慮の重みは増し、ガバナンス体制を後回しにしたまま範囲だけを広げると、後になって説明責任を果たせなくなるリスクが高まります。データ活用の成果は、技術力だけでなく患者・利用者からの信頼をどれだけ丁寧に積み上げられるかにかかっています。

【本記事のまとめ】

  • 医療データ活用の広がりに比例して、倫理的配慮とデータガバナンスの重要性も高まっている
  • 活用と配慮の両立には、データマップ作成・目的明文化・加工レベル選定・体制整備・本人への説明という段階的な進め方が有効
  • まずは自社・自院で保有する患者データの棚卸表を1枚作成することから着手する

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7. よくある質問

Q. 医療データ活用と個人情報保護法・次世代医療基盤法はどのような関係にありますか。
A. 個人情報保護法は個人情報全般の取扱いルールを定める基本法で、第三者提供には原則本人の同意が必要です。次世代医療基盤法は、匿名加工または仮名加工した医療情報について本人が拒否しない限り研究開発等への利用を可能にする特別法で、公益性の高い用途での二次利用を後押しします。両者は併存しており、目的や加工レベルに応じてどちらの枠組みで対応すべきか整理が必要です。
Q. 仮名加工医療情報と匿名加工医療情報は何が違うのですか。
A. 匿名加工医療情報は特異な値や希少疾患名なども削除し、他の情報と組み合わせても本人を特定できない水準まで加工したものです。仮名加工医療情報は氏名やID等を削除して単体では特定しにくい状態にしたものの、特異な値の削除は求められておらず、他の情報と照合すれば再特定される可能性が残る点が異なります。仮名加工医療情報は活用の柔軟性が高い一方、より慎重なガバナンスが求められます。
Q. 中小規模の医療・ヘルスケア事業者でも、データ活用と倫理配慮を両立できますか。
A. 規模にかかわらず、まず自社・自院で保有するデータの種類と利用目的を1枚のデータマップに洗い出すことから始められます。大がかりなシステム投資より先に、利用目的の明文化や患者・利用者への説明方法を整える運用面の整備から着手すれば、無理なく段階的に両立を進めることができます。
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